『ワカラナイ』のプレイベントが決定しました!!

『ワカラナイ』 の配給を引き受けていただいた、ティ・ジョイが、粋な計らいをしてくれた。
プレイベントとして、11月の13日と14日に、「新宿バルト9」にて、真夜中の青春映画上映会を行う!
内容が、凄い!
○ エレファント
○ ある子供
大人は判ってくれない
二十歳の恋―アントワーヌとコレット
○ 家庭
これらが、二日の間に、ど真夜中に観られるのだ!!
これは、行くべし! だろう!
絶対!!
まだ、観てない人には、なかなかスクリーンで観る機会はないので、ぜひともだし、何度も観ている人には、この機会に、もう一度だ!
あえて、解説めいたものは、ここでは書きません。
間もなく、詳細は、『ワカラナイ』のHPなどに出る予定ですので、要チェックです!!

2009/10/20

モニターをにらみ、
「一体、昨日は、何をしていたんだろう?」
と、しばし考える。
「ええと…何をしていたんだったか…」
まだ、思い出せない。
「これは、ひどい!」
と、青ざめる。
「脳に腫瘍でも出来たのか?!
でなくちゃ、昨日のことが思い出せないなんてことがあるものか!」
ぞっとなる。
そんなとき、ようやく、思い出す。
「そうそう。久しぶりにフイルムクラフトに行ったんだったな。Kさんと話したんだったな。久しぶりに、『春との旅』も観たんだったな…」
と、色々なことが思い出されて、ほっとする。
博士の愛した数式」を読んだのは、いつのことだったか?
読んでいるときは、
「そんな馬鹿な!」
と、思っていたけれども、自分があの博士のようになるのも時間の問題なのかも知れないと思い始めたこの頃では、博士のように、思いついたことは、何でもメモすることにしているのだが、そのメモをどこに書いたかが分からず、思い出せないままで終わることもしばしばだ。
いよいよ、『春との旅』が出来上がる。
ボクが、このまま、健忘症に突入するとしたら、きっとこの映画のせいだなと思う。
それぐらい、性も根も尽き果てた。
『ワカラナイ』も似たタイプの映画だったので、その間に、撮影した、『白夜』が、霞んでしまった感じがするが、撮影を終えて、仕上げに入ったころには、『春との旅』の撮影準備もあって、気が狂いそうな状態でいた。
重なったスタッフも大変だったろうが、Kさんもその一人なのだが、あまり大変な風には見えず、飄々としている。
それが彼の良さでもあるのだが、神経性の下痢なんかを起こしているようだから、ボクには、それを見せないだけなのだろう。
「また、糖尿が悪化しました」
と、開口一番云うのだが、彼が真に迫れば迫るほど、なんとなく嘘くさいから、不思議だ。
頑固一徹で知れた師を持つKだが、師からは何も学ばなかったようで、五十を過ぎても、未だに柔軟で、業界を、スイスイとヒラメのように泳いでいる。
しかし、この男、ダメ男が滅法好きで、何かと云うと、あやしい男たちと集っている。
それだけではなくて、騙され、不払いを踏み倒されて、逃げられたりしている。
「でも、いい人なんですよね」
なんて云うもんだから、ワカラナイ。
「また、やられちゃいましたよ。大変ですよ」
なんて台詞を何度聞いたことか!
それでも、次に会うと、へいっちゃらな顔をしているのだから、不思議だ。
ピンク映画の編集をしていた時は、エロおやじとしか云い様がなく、Vシネのやくざものを一手に引き受けていた時は、どこから見ても、ヤクザでしかなく、テレビ局がらみの大作をやっているときは、ブレザーなんか着て、ビジネスマンに豹変する。
まるでカメレオンだ。
陰で、彼のことを「タコ坊主」なんて云う奴がいるのをボクは、知っているが、ボクは、云わない。
愚痴を吐くとき、年下だから、「K」と呼び捨てにするぐらいで、普段は、「Kさん」と、呼んでいる。
ボクは、彼のことを思い出す度に、未だに、『仁義なき戦い』の金子信雄を思い出す。
Kが本物のヤクザになったら、きっとあの役回りだろうなと思う。
泣き落としがうまいのも、似ている。
これで、女にもてるんだから、マメと云うことなんだろうけれども、どうも良くワカラナイ。
いずれにしても、男同士の関係と云うのは、ワカラナイぐらいが丁度いい。
付かず離れずが一番。
流行の「盟友」も、「終生の同士」とまではいかず、所詮、「映画の中で」か、「しのぎの中」でのことなんだろう。
だから、せめて、息子には、沢山友だちを作ってもらいたいものだと思う。
「ダチ」。
「盟友」も要らないし、「親友」なんてのも、要らない。
「ダチ」がいい。
きわどく、切なくてね。
だから、きっと、Kとは、ダチなんだろうな。
いずれにしても、トリュフォーではないけど、午後七時以降は、「男とは会わない」が、理想だ。
「しかしな。
今となっては、遅いよな」
書きながら、ため息が出て来る。
未だにボクは、トリュフォーを女ったらしだとは思わないのだけれども、それが女ったらしの女ったらしたる所以なのかも知れない。
「お前なあ。立派な監督ってのは、家庭崩壊だぞ! それしかないぞ!」
と、盛んに女遊びをするように勧めたプロデューサーがいたが、
「だから、日本映画はダメなんでだ!!」
と、ムキになって怒鳴ったかつてのボクが、懐かしい。
歌っていた時のことを訊かれて、
「やはり、アレですか? 女にもてたかったから、歌やってたんでしょ?」
なんて云われて、激怒して、
「馬鹿野郎! 歌を何だと思ってるんだ!」
なんて、暴れたことを思い出す。
「盟友」も「親友」も、「終生の友」も幻想と知った今、あと、何年生きられるか?
あと、何年、行きたいか?
明日は、健康診断。

2009/10/18

ほとんど寝ずに、オーディション会場へ。
食事を挟んで、オーディションが続く。
夕方までに、17人。
知らない映画や、ドラマの名前が出て来る。
和太鼓のうまい子。
チェアーダンスを習っている子。
韓国語を勉強している子。
みんな可愛い。
「こんな世界に来ることないよ」
と呟く。
加藤さんのことが頭から離れない。
何年ぶりかで、うなぎ食べる。
ずっと禁じていたものだから、凄く美味い。
涙が出て来る。
ご飯を申し訳程度、残す。
本当は、全部食べたかったのだが…。
新幹線で、また加藤さんのことを考える。
気が付いたら、眠っていた。

2009/10/17

浜松へ。
駅の近くのホテルにチェックインし、そのビルのレストランで、打ち合わせがてら呑む。
浜松は、餃子が美味いと言うので、中華に入って、更に呑む。
三軒目で、休んで、ホテルに戻る。
遼くんが、一位に躍り出て、「おお」と、思う。
チャンネルを変えると、『フィラデルフィア』やっている。
途中からで、しかも吹き替えなのに、じっと見入ってしまう。
映画が終わると、感動しているボクがいる。
トム・ハンクスの演技が、素晴らしい。
興奮して眠れない。
気が付いたら、空が白んでいる。
朝刊が届く。
開いたら、加藤和彦さんの自殺の記事。
凄い、ショックを受ける。

2009/10/15

銀座で、打ち合わせ。
別れて、奥さんと「ライオン」で、ビール。
最近は、ビールが多くなった。
家で呑んでる時は、糖質ゼロがあるので、それほど抵抗はないのだけれども、釜山に行くと、もちろん低カロリーのビールなんかはないみたいで、普通のを呑んでいた。
普通と言っても、日本のものと比べると、幾分、糖分は少ないようで、ヨーロッパのビールに似ている。
米が入っていないのかも知れない。
その後、飯田橋の「翁庵」で、美術のYさんと待ち合わせ。
既に、Yさんは、ビールを呑んでいる。
「じゃ、ボクも一杯」
と、そこでもビール。
やがて、焼酎になるのだが、水割り一杯も呑めない。
自分でも、めっきり弱くなったなと感じる。
いや、何だか、最近は、呑んでなくても呑んでいるような気分で、アルコールの必要がなくなってしまつたのかも知れない。
少し、呑めば、それでもう要らない。
Yさんと別れて、本屋に寄り、ミステリーを数冊買い込んで、カフェへ。
ラテで、栄養補給。
帰宅して、ビール。
言ってる先から、こうだ。
結局、呑んでいる。
「こんな生活、嫌だな」
と、自戒。
「映画の中だけで生きていたいな!」
と、叫んで、我に返る。
「ああ、しばらく、またもやへんてこな世界で、泥被ってたな。こうしちゃいられない!」
と、奮起。
そろそろ涼しくなってきたからな!
創作の秋、到来だな!!

2009/10/14

事務所で『白夜』の、DVD用のインタビュー撮り。
色々と、この映画について話すが、まだ話したりない。
監督は、このぐらいの方がいいんだろうけど、完成して、何ヶ月も経つと、一際愛着が出てくるようで、それは、歳をとったと言うこともあるんだろうけど、ついつい、話好きになってしまう。
この映画については、色んな人のブログで、いちゃもんをつけられているようで、奥さんなんかは、腹を立てているが、読んでみると、ただの難癖で、話にもならない。
ただ、いちゃもんでも何でも、ないよりあるほうがマシなので、ま、せいぜい、自分の目で見てもらって、判断して欲しいと思う。
みんなに受け入れられるような映画と言うのも一度ぐらいは作ってみたいと思うけれども、そうでない映画も、作り続けないといけない。
顰蹙は、かうもの。
それでなんぼの商売だ。

『ワカラナイ』の試写が始まっていて、こちらの方も、どちらかと言うと男受けする映画ではないので、大多数の男からは、またボロクソの攻撃があるんだろう。
それはいいのだけれども、映画にリアリティーがないと言う意見は、いただけない。
現実は、こんなもんじゃない。
亮のような少年は、地方には、沢山いる。
それは、今に始まったことではないのだ。
かつて、地方が、共同体として機能していたころは、まだ助け合いの精神が残っていたけれども、都会的な、似非個人主義が地方にも浸透した今、隣人が餓死していても気付くことはない。
「知らぬが仏」
と言うわけだ。
映画の中の大人たちが冷たすぎると言う意見もあるが、それでは、あなたは、他人の心をおもんばかる善人なののかと言うとそんなことはなく、例え、葬儀屋であっても、商売にならないと判れば、逃げ出すものだ。
看護婦さんにしても、病院の経理担当者にしても同様で、組織の一員と言うものに、人間性を説いても、無意味なものだろう。
この映画の中で、唯一、温情らしきものが感じられるのは、コンビニの店長だが、彼は彼で、安く使える後釜が出来たことで、それらしく見えるだけで、実際は、冷酷な男だろう。
この映画で、主人公の亮は、離婚した父のもとに走るが、そんな一抹の希望もない少年たちが沢山いるのだ。
彼らは、孤独をひとりかみ締めながら、犯罪にも奔らず、懸命に生きている。
そんな少年少女たちが、この映画を観てくれたらいいなと思うが、人も、映画も、出逢いである以上、偶然に期待するしかない。

昼間に、「尾張屋」で、一杯やったので、事務所を出て、「ちょっと一杯」はなしで、帰宅。
ビールも一缶をもてあます。
幸い、何本かの映画も完成し、数ヶ月が経ち、「死にたい」とは、思わなくなってきたけれども、その分、気力体力の衰えを感じるようになった。
今夜は、「エネルギー」を聴こう!

「瀕死のドライブ。あるいは、死ぬまでにして欲しいたったひとつのこと」

2009/10/13

案の定、ほとんど眠れずに、ホテルのロビーへ。
映画祭の車は、既に来ていて、
「どうぞ」
と、スタッフが、ドアを開けてくれる。
なかなかいい気分だ。
が、それは、車が走り出して、間もなく、悪夢に変わった。
スタッフたちが、大声で、ドライバーに声を掛けている。
ボランティアのドライバー君は、至極真面目そうな好青年なのだが、運転は、荒い。
いきなり、急スピードでバックしたかと思うと、タイヤを軋らせて、止まる。
手にしていたペットボトルの水を思わずこぼしてしまい、ボクの下半身は、水浸しだ。
「おい…」
と、ドライバーに言おうとしたら、既にドライバーは、降りていて、トランクの方に行っている。
「はやくしないと間に合わない!」
と、別のスタッフと喧嘩腰で話している。
すると、ボクの隣に、男が乗り込んできた。
そして、助手席にも。
「何だ、何だ! 一体!」
と、彼らを見てると、ドアが開いて、女のスタッフがニタリと笑う。
たどたどしい日本語で、
「一緒に乗ってもいいですか?」
と訊く。
「きみも乗るの?」
「いいえ、私じゃありません。この人たち」
「もう、乗ってるじゃないか!」
怒鳴りつけたい気持ちを抑えて、「いいよ」とこたえる。
それより、早く走ってくれないと、飛行機の時間に間に合わない。
ボクの乗る飛行機は、釜山から成田までの国際線なのだ。
いくらなんでも、30分前には着いてないと、乗り遅れてしまう。
「早く出せ!」
と、後ろを振り返ると、まだドライバーは、口論をしている。
「間に合わないんだよ!」
と、怒鳴っている。
「全く…」
と、ため息をついて、もう諦めの境地で、寝てしまおうと目を閉じる。
「きっとなるようになる」
しかし、寝るに寝られない。
車が走り出した途端に、助手席の男が、窓を全開にしたのだ。
「いいですか?」
と、訊いてきたので、低速だったので、
「ああ、いいよ」
と、答えたのだけれども、間もなく、ドライバーがむきになってアクセルを踏むもんだから、たまらない。
冷たい突風が、吹き込んでくる。
眠れるもんじゃない。
おまけに、助手席と隣の席の男たちは、には、ひっきりなしに喋っている。
寒さに身を震わせながら、目を閉じる。
そして、うんざりしながら時計を見る。
「大丈夫かな」
と、また心配になる。
高速に入った途端に、渋滞。
来たときと同じだ。
「どうなってんだよ! 韓国の高速は! 日曜祭日一律1000円でもやってんのか?!」
と、叫びたい気分だ。
ドライバーもさすがに焦りだしたのか、ひっきりなしに、どこかに携帯で電話をしている。
助手席の男は、まだ喋っている。
窓は、閉まる気配はない。
余程の暑がりなんだろう。
しかし、渋滞だから、突風が吹き込むことはないので、唇が青ざめるまではいかない。
しかし、寒いことは、寒い。
隣の男が、気にしてボクをチラチラと見ている。
それが目の端に感じられるのだが、ボクは、無視して、窓の外と、時計を交互に見ている。
トンネルに入る。
喋りが夢中の助手席の男は、トンネルの排気ガスが入ってきてもお構いなしだ。
「ようし、だったらこっちもだ!」
と、タバコを手に取るが、グッとこらえる。
第一、排気ガスだらけのところで、タバコを吸っても、うまくない。
そっとポケットに戻して、片手で、ライターをもてあそぶ。
そんなボクの心境など、知ったものかと言わんばかりに、渋滞中のトンネルの中で、窓を全開にして、助手席の男は、まだ喋っている。
「いい加減にしろよな、お前!!」
と、首を絞める。
いや、そんな妄想が湧く。
冷や汗が出て来る。
ニコチン切れか、この状況から抜け出せないためのストレスが一気にボクを襲ったのだ。
血糖値がグングンと上がる。
合併症が、一気に加速する。
眼底の毛細血管が、プツンプツンと音を立てて、切れ、血玉となっていく。
「ああ、失明だ。どうしよう。もう、監督廃業だ」
と、アラーの神に祈る。
ようやく、トンネルを抜け出した。
しかし、渋滞。
全盲になる前に、手の中のライターを見詰める。
「目が見えなくなっても、タバコは吸うぞ! だからこのライターだけは、手放さないぞ!」
握り締める。
そして、窓を全開にして、顔を外に突き出す。
空気を腹いっぱいに吸って、なんとかしのぐ。
けたたましいフランス語から、二人がフランスの監督だと知る。
話題がフランスの女優のことになる。
「ああ、彼女は知ってるよ。話したことがある」
とかなんとかの自慢話大会だ。
まるで、フランスの女優を全て残らず知ってるような口ぶりだ。
「彼女はいいよね」
「でも、カトリーヌの方がいいだろう」
「そりゃあ、もちろん。カトリーヌはいい」
なんて言う。
あのカトリーヌ・ドヌーブ様を、呼び捨てだ。
「ギャラ、高いんだろうな」
「それは高いだろう」
「大体、幾らぐらいなんだ?」
「判らないけど、高いよ」
「大体、どれぐらいなんだろう」
「判らないけど、ベラボーに高い」
「安くやってくれないかな」
「ホンが気に入れば、お友だち価格ってのもあるかも知れない」
「ホントに?!」
ここら辺から、ボクも、聞き耳を立てる。
そうか。カトリーヌ・ドヌーブ様でも、ホンが気に入れば、条件面の考慮をしてくれるものなのか。
話は、続く。
「きっとね」
「よし! アタックしてみるか!」
「しかし、スケジュールがとれないかも知れない」
「ああ、そうか」
ボクも、落胆する。
そうだよな。忙しい人だからな。
「何年も先まで、決まってるらしいからね」
「そうか!」
ボクも、残念がる。
「しかし」
「しかし何だ?」
「ホンが良ければ、スケジュールも空けるかも知れない」
そうか。スケジュールも空けてくれるのか。
「最高なんだよ! 最高のシナリオなんだ!」
へえー。
「だったら交渉してみる価値は、あるかもね」
そうだ、そうだ。
やって見ろ!
ボクも、思わず、応援している。
「よし! やってみるか!」
やってみろ!
「そんなに良いのかい、そのシナリオ」
「うん! 最高なんだ! 傑作だよ! カンヌでパルムドールも夢じゃない! まだ、書いてないんだけど、絶対に、これは、傑作だ!! このボクが書くんだからね!」
で、隣の男が、吹き出して、笑った。
おかしくも何ともなかった。
聞き耳を立てていて、損した気分だ。
「このバカヤロウ」
と、殺してやりたい気分だ。
で、ようやく、空港に着いたのだけれども、「インターナショナル」の看板を通り越して、「ドメスティク」の方に行くもんだから、
「あれ?」
と、思った。
「どこまで?」
と隣の男に訊いたら、
「ソウル」
だと言う。
ボクは、全身が脱力していくのを感じた。
しかもだ。
「何だよ。まだたっぷり時間あるじゃないかよ。じゃ仕方ない。少し早いけど、昼飯にするか」
「水冷麺あるかね。あれは、美味い!!」
などと話している。
「この野郎…」
と、去っていく二人を恨めしく見送り、ボクは、また空港を一周して、ようやく、国際便の方に到着した。
ボランティアのドライバーだから、怒る気にもならない。
「ありがとう」
ひん曲がった顔で言って別れ、タバコを吸い、奴らから、解放されたことを祝った。
助手席の男が最後まで窓を開け放していたおかげで、寒気がして、くしゃみばかり出る。
そうして、ようやくチェックインを済ませて、走って搭乗口まで行く。
通りすがりの人たちがボクの股間を見て、笑っている。
こぼしたペットボトルの水が、まだ乾いていないのだ。
「参ったよなあ! 水こぼしちゃってさあ」
と、誰も聞いていないのに、大きな声を上げて繰り返す。
「何なんだ、一体! どうして、ボクは、こんな状況にいるんだ!!」
帰宅して、倒れ込んだベッドの上で、ボクは悪夢にさいなまれている。
そこにいるボクは、空港に向う車の中で窓から突風に吹かれ、「豚インフルエンザ」に感染し、糖尿病が原因で、瀕死の重症となってしまっている夢だ。
「頼むから…頼むから、その無駄話をやめにしてくれないか?」
ボクは、まだ祈っている。