2009/09/26

一夜、明けて、やはり今日も大相撲のことが気になりだす。
とは言え、今日は、東京に戻る日。
「ビールも呑まずに、相撲を見ろってのかよう!」
と、暴れるが、仕方ない。
素面で見よう。
唐桑は、昨日から、晴天。
少し暖かくなって来て、
「これから、夏が始まるか?!」
ってな感じだが、世の中、確実に、秋に近づいている。
『ワカラナイ』の撮影時、この町の蒸し暑さったらなかった。
スタッフ、キャストは、ボクの家か、近くの国民宿舎に泊まったのだけれども、洗濯物が全然乾かず、ボクは、気仙沼ジャスコに走り、除湿機を二台買った。
除湿機と言うものが、未だにあることを知らず、エアコンを買いに行ったのだけれども、売り場の片隅に、ひと桁値段の違う除湿機の存在があることを知って、
「ま、こっちにするかぁー」
と、除湿機を選んだのだ。
あまり期待していなかった除湿機だが、スタッフらには、大変喜ばれた。
除湿機の上に、洗濯物を干すと、あつと言う間に、乾くというのだ。
「そんなに凄いのか!」
と、除湿機の威力を確認したボクは、部屋中に除湿機を置いて、一日中、稼動させておこうと決めた。
もちろん、これは、奥さんの反対で、やむなく取りやめとなったのだが…。
二台の除湿機は、フル稼働して、部屋に入ると、むしむしとした空気が、すうーっと消えて、(エアコンではないので)涼しくはないのだが、湿気がとれて、快適だった。
それまでは、全く、酷いもので、何ヶ月か、家を空けて、来たときには、入ったとたんに、カビの臭いが充満していて、畳の部屋などは、緑色の苔のようなものが、部屋中を覆っていたほどだ。
「うぇっ! 何だ、こりゃ」
と、部屋に入ると、くっきり、足跡が付く。
それが、除湿機の到来で、そんなことはなくなったのだが、留守にしている間中、除湿機をつけているわけにもいかないので、出るとき、スイッチを入れて、タンクが満杯になるまでは、作動しつづけるようにして、東京に戻るようにしている。
以来、家に来たとき、この除湿機のタンクに溜まった水を見るのが、愉しみでもあった。
しかしだ!
しかしなのだ!
最近、奥さんが、この除湿機の水の存在を知ってしまい、この家に来ると、まっさきにこの除湿機に近づいて、さっさと水を捨ててしまうのだ!
ボクが、
「しめしめ、タンクの水は、どれくらいたまっているかな?」
と、手ぐすねひいて、畳の部屋に行くと、既に、タンクは、持ち去られた後だ。
「な、あのさ、除湿機の水。タンクの中の水、あれどうした?」
と、聞くと、
「ああ、あれか? あれなら、捨てた」
とか、簡単に答える。
「何、捨てた?!」
「庭に、撒いた」
とか言う。
ボクが、どれだけ、愉しみにしていたか。
その気持ちも知らずに、
「捨てた」
と、あっさり言われて、ムッと来る。
しかし、ボクも、大人だ。
怒鳴ったりは、しない。
怒鳴ったりはしないものの、ねちねちと、絡む。
と、奥さんに逆切れされて、
「ほなら、あんたが、さっさと捨てればいいやんか!! なんやねん、たかが除湿機の水で、ああだこうだと…」
怒られているボクは、もう聞いてない。
タンクの水を、そろそろと洗面所で流す。
舌なめずりしながら流す、その光景を脳裏に浮かべている。
タンクの水は、意外と重い。
その重量感がいい。
「空気の中に、こんなに水分があるのか!」
と、驚く。
その驚きを、洗面所で少しづつ流すことで、カイカンに変えるのだ。
悦びを噛み締める。
そのカイカンを味わいたくて、一度、水道の水をタンクに入れて、除湿機にセット。
それから取り出して、洗面時で流してみたが、やはりカイカンは、得られなかった。
当たり前だ。
長い月日が生んだ、成果だ。
だから、愉しみも倍増するのだ。
今も、無人の部屋では、除湿機が、唸り声をあげている。
帰るとき、洗面所で、溜まった水を流す、あのカイカンをボクにもたらすためにだ!
除湿機は、可憐に、稼動している。

帰りの車中、ハンドルを握りながら、ようやく、『ワカラナイ』のことに思いを巡らす。
「そうだな。公開も間近に迫っていることだしな。そろそろ、『ワカラナイ』のことでも書かないことには、このブログの意味は、ないしな」
などと殊勝になる。
「んー」
と、前の道を、眺めながら、唸る。
流れてる音楽は、清志郎
「いいこと、ばかりは、ありゃしない〜
 昨日は、白バイに捕まった
 月光仮面が来ないのと
 あの子が電話、掛けてきた〜」
音楽がいけなかったのか、あまりポジティブになれない。
目が霞んでくる。
キーンと、耳鳴りがする。
「?」
その時だった。
グッと下っ腹が疼いた。
下痢だ。
これは、明らかに、神経性の下痢だ。
「来たぞ! 来た来た!!」
ボクにとって、この状態は、悪い兆候ではない。
むしろ、いい兆候だ。
この体とは、55年の付き合いなので、良く判る。
「よし!」
と、トイレから、出て来たボクは、宣言する。
「明日からのこのブログは、極私的にならず、映画『ワカラナイ』の宣伝に徹しよう!」
胸を張って、夜空に絶叫する。
「やるぞ〜! やるぞ〜! やるぞ〜!!」
ほんとかいな。