風とキャベツと『ワカラナイ』

2009/10/07
事務所にて、『ワカラナイ』の取材。
相手は、「社会新報」。
書き手は、映画評論家で、映画監督でもある田中千世子さん。
「社会新報」とは、社会民主党の機関紙。
宣伝の神田と近くの中華で、晩御飯。
「台風、来そうですね」
と、云うから、
「もう通り過ぎたんじゃないの?」
と、訊いたら、白けた顔をしていた。
ニュースも見ずに来たので、知らなかったが、家に帰ったら、台風のニュースばかりだった。
奥さんと息子は既に寝ていて、酔いを覚ましながら、「報道ステーション」見る。
古館さんが予算の話を、民主党の議員としていた。
なかなか面白かった。
チャンネルを変えて、BSを眺めていたら、ノルウェーの刑務所と受刑者の番組があって、「拘束せずに、受刑者を、更生させる」と云う。
成功例が沢山あり、思わず、見入ってしまう。
スタジオでは、日本に置き換えたらどうなのかの議論をしていて、犯罪の加害者は、それでもいいが、それが殺人事件だとして、被害者の側は、どうなっているのか? の質問に、社会保障が徹底しているので、犯罪被害者あるいは、その家族への配慮も、徹底しているとのこと。
『シッコ』を観ればとっくにわかることだけど、アメリカや日本は、社会保障に関しては、もう、デタラメとしか、云いようがなく、ヨーロッパの特に、フランスや北欧の諸国は、税金も高い代わりに、社会保障も徹底している。
何とも、うらやましい限りだ。
そう思っていた矢先に、フランスの電話会社が、リストラを行った結果、半年で、24人の自殺者が出たと、毎日新聞に出ていて、驚いた。
しかも、そのほとんどが職場で起こったと言う。
会議中に、刃物で、腹を刺して、自殺した人もいるとか。
「何てことだ!!」
と、憤る。
フランスでも、大問題となっているらしいが、これがアメリカ、グローバル化の成れの果てか。
拝金主義の行き着く先を、見せ付けられた気分。
むなくそが悪い。
また、チャンネルを変えると、ビリージョエルが歌っている。
さらにチャンネルを変えると、「青春リアル」。
引きこもりの男(キャベツ)が出て来る。
何年も引きこもっていた男は、ネットを通して、色々な人と話したりしているうちに、外に出てみようと思い出す。
マスクをして、帽子で顔を隠し、コンビニに買い物に行って、店員と一言の言葉を交わす。
それがやっとだ。
やがて、キャベツは、雨戸を開けるのだが、また、ひきこもってしまう。
『TOKYO』の中の香川くんのようでもあるが、まだまだ、あの話は、甘い。
恋めいた能動性は、彼らには存在しないのだ。
こう書いていて、『ワカラナイ』で、やむをえずカットしたシーンを思い出した。
そこには、亮と同級生の女の子のほのかな恋めいたものが描かれていたのだけれども、これは、ふさわしくないと思った。
ギリギリのところにいる亮に、恋めいたものは、存在しないと思った。
受身を強いられてきた子供たちに、エネルギーを持てと言っても、意味もワカラナイだろう。
親の収入が減り、学費も払えない子供たちが沢山いる。
教師も救えない。
「で、どうするんだ」
「バイトして、学費、払います」
「勉強の方は、大丈夫か」
「眠いけど、頑張ります」
これも、先日見たテレビの中での、実際のやりとりだ。
進路相談の授業でも、教師が生徒に、平気で、金の話をする。
「いくら、進学の夢があっても、金がなくちゃ、夢の実現は出来ない」
などと、ご丁寧に、黒板に「入学金」やら、「学費」やらの金額を書いて説明している。
そうするしか他にない教師がいる。
黙って、聞いている生徒たちがいる。
学費不払いや、入学が決まったのに、入学金が払えない生徒がいたら、その子を送り出した高校の不名誉、信用にかかわるのだろう。
「金がないなら、夢は持つな。迷惑だから」
と、言ってるようなものだ。
しかも、子供たちにだ。
そのぐらい子供たちは、いやおうなく夢を断ち切られている。
なのに、都知事は、オリンピックを誘致することが、子供たちの夢を育むことだと言う。
認識不足としか言いようがないではないか!
憤っても、詮無いのだけれども。
現実は、恐ろしいほどに、若者たちを蝕んでいる。
風は、吹かないのか?
いや、吹き始めているような気もするのだが…。

明日は、台風来襲。
真夜中の台風ニュースを見るたびに、いつもワクワクしてしまう。
子供のころは、明日が台風と云うと、学校が休みになり、夜更かしができるので、こっそり外に飛び出して、大雨の中で、天を仰いで、大口を開けて、雨を口に頬ばったりしたものだ。
警報の類いが、子供にとっては非日常で、胸躍る瞬間でもあった。
そんな童心が、今は思い出の中にしかない。